

年金制度改正法により、106万円の壁が2026年10月を目途に撤廃されることが決定しました。
106万円の壁とは、社会保険の加入に関する収入のボーダーラインのことです。
年収106万円(月収8万8千円)を超えると、社会保険への加入義務が生じ、保険料負担が発生することから「106万円の壁」と言われていますが、この壁がなくなります。
この記事では、年金制度改正法の内容とともに、106万円の壁が撤廃されることによるメリット・デメリット等について詳しく解説していきます。
目次
まずは106万円の壁の概要についておさらいします。
「〇万円の壁」という様々な年収の壁を耳にしたことがある方は多いと思いますが、今回取り上げるのは「106万円の壁」。
これは社会保険の加入義務が発生するかしないかの境界線の壁です。
社会保険(厚生年金保険および健康保険)では、会社員等の家族で一定の収入がない等の要件を満たせば「被扶養者」となり、社会保険料の負担が発生しません。(保険料を払わなくても社会保険の保障が受けられます)
ただし、この”一定の収入”を超えると、自分で社会保険料を負担して社会保険に加入しなければなりません。ここでの”一定の収入”というのが106万円です。
社会保険料を負担するということは、その分手取り収入が減ります。このため、年収が106万円を超えないように就労制限をする人も少なくありません。
この働き控えによる労働力不足を解消するため、年金制度が改正されました。
2025年6月13日、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案(年金制度改正法)が可決・成立しました。
これまで、短時間労働者(パート・アルバイト等)の社会保険(厚生年金・健康保険)加入要件は、企業の規模・賃金・勤務時間などが絡み合っていて、複雑でわかりにくい部分がありましたが、今回の改正によって加入要件がシンプルになり、加入対象が拡大されました。
2025年(令和7年)の年金制度改正法による、短時間労働者(パート労働者等)の社会保険の加入拡大に関するポイントは以下の3つです。
学生は対象外です
社会保険適用の企業で働く正社員・フルタイム労働者や、所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の労働者は、収入に関係なく社会保険に加入しなければなりません。
これまでは給与が月額88,000円以上の人が社会保険の加入対象となっていましたが(いわゆる年収106万円の壁)、この要件がなくなります。
撤廃の時期は、全国の最低賃金が1016円以上となるのを見極めて判断されます。2026年10月が撤廃の想定時期となっています。
これまでは従業員が51人以上の企業等で働き他の加入要件を満たしている人が社会保険の加入対象となっていましたが、働く企業の規模に関わらず、社会保険へ加入するようになります。
これまでは個人事業所のうち、常時5人以上を使用する法定17業種(*)については社会保険に必ず加入することとされていましたが、2029年10月からは、法定17業種に限らず 常時5人以上の者を使用する全事業所が適用対象となります。
(*)法定17業種とは…
①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業
2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外です。
改正後、社会保険(厚生年金・健康保険)に必ず加入することになるのはどんな人か、整理します。
賃金要件・企業規模要件が撤廃されたあとは、社会保険加入の要件が以下のようにシンプルになります。
企業規模要件は10年かけて段階的に縮小・撤廃していくこととなっているので、勤務先によって改正の時期が異なります。
学生は社会保険の加入対象外です。
106万円の壁がなくなり、働く企業の規模も関係なく社会保険に加入することになると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
新たに社会保険の加入対象となる人にとってのデメリットは、保険料負担が発生することで手取り収入が減ることです。
※助成金等の施策があるため、勤務先によってはただちに手取り減とはならない場合もあります。詳しくは後述します。
社会保険の加入対象が拡大することによるメリットは以下の通りです。
社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することによるメリットは以下の通りです。
今回の改正による社会保険の加入拡大の対象者を支援するため、特例的・時限的な支援策が実施されます。
企業規模要件の縮小・撤廃によりあらたに社会保険の加入対象となる短時間労働者に対しては、事業主が追加で負担することによって社会保険料の負担が軽減される特例措置があります。
事業主が追加負担した保険料については、全額を制度全体で支援します。
社会保険の加入にあたって、労働者の収入を増加させる事業主への支援や、加入拡大に関する事務の支援、生産性向上に資する支援が実施されます。
「年収の壁・支援強化パッケージ」について詳しくはこちらの記事で解説しています。
最後に、いままで配偶者の扶養内で働いていた人たちが疑問に思うであろう点を整理します。
パート・アルバイトで週20時間以上働くと、配偶者の扶養(第3号被保険者)から外れるの?
企業規模要件・賃金要件が撤廃されると、配偶者に扶養されている人がパート・アルバイトで働く場合、収入に関わらず、週の労働時間が20時間以上であれば、自分で社会保険に加入することになります。
パート・アルバイトで働く時間が週20時間未満なら、配偶者の扶養(第3号被保険者)でいられるの?
週の労働時間が20時間未満であれば、社会保険の加入対象にはなりません。(配偶者の扶養になれます。)
ちなみに、残業等で一時的に労働時間が週20時間以上になったとしても、社会保険加入とはなりません。ただし週20時間以上働く状況が2か月以上続けば加入対象となる場合があります。
※年収130万円以上になると、週20時間未満であっても配偶者の扶養(第3号被保険者)から外れます。この場合は国民年金と国民健康保険の保険料負担が発生します。
社会保険に加入すると手取りはいくら減るの?
配偶者の扶養(第3号被保険者)では社会保険料が0円ですが、週20時間以上働いて社会保険に加入することになると、一般的には年額で15万7000円の負担が生じます。(※年収106万円の場合。社会保険料は収入によって異なります。)
その分将来もらえる年金は増えるので、一概に損とは言えませんが、決して小さくはない金額ですね。
所得向上を阻む壁がなくなることで、働き控えがなくなり、短時間労働者の所得も向上することが期待されています。