政府は、働き方改革の一環で 副業や兼業を推進しています。
「あの企業が副業解禁!」なんていう話題を耳にすることも増えました。
兼業や副業をする人が増えているなか、副業推進の追い風となる法改正がありました。
それは、労働者災害補償保険法の改正(令和2年9月1日施行)で、副業をしている労働者にとって有利な内容です。
簡単に言うと、これまでよりも保険給付金額がアップし、過労死などが労災に認定されやすくなる、というような感じです。
どういうことなのか?労災保険法の改正内容についてわかりやすい言葉でまとめます。
目次
そもそも労災とは?
本題に入る前に、そもそも労災保険とはどんなものなのかを知っておきたいですね。
労災保険とは、労働者が仕事中や通勤中に、業務に関係することが原因で 負傷(怪我)をしたり、病気になったり、死亡したりしたときに、その傷病に関して、必要な保険給付を行う制度です。
労災保険の正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。
詳しくは、こちらの関連記事をご覧ください。
改正前、副業の労災認定で問題とされていたこと
まずは、これまで副業と労災認定について問題・課題とされていたのはどんなことなのかをまとめます。
例えば、複数の場所で働いていて、副業先で労働災害に遭ったとします。
その場合、保険給付額の算定対象となるのは災害が発生した勤務先(副業先)の賃金のみでした。
たとえば、月給25万円のA社と月給10万円のB社の両方で働いている人が、B社でケガをした場合、B社の労災保険が使われることになり、休業補償給付も、B社の給料10万円をもとに給付額が算出されていました。
副業先で事故が起こった場合には、本業も休まなければならなくなったことで本業の収入も減り、副業先の分の低い補償しかされないという、踏んだり蹴ったりの状態でした。
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いた残業時間についても、1社ごとに判断されていました。
例えば、A社で月160時間(1日8時間)、B社で月120時間(1日6時間)働いていて、心臓疾患などで倒れた場合、それぞれの会社では法定時間内なので、残業時間はゼロとなります。
これは、月20日出勤するとした場合、単純計算で 1日4時間以上の残業・12時間労働をしているということです。
一つの会社の労働時間でしか判断されないということは、2社分合算で残業時間が80時間を超えていたとしても、労災認定されないということです。
長時間労働のストレスが原因で心の病気にかかってしまった場合も、これまでは、A社とB社それぞれの会社ごとに労働者に対する負荷(労働時間やストレス)を調べて、労災認定されるかどうかが判断されていました。そうなると、1つの会社の中だけで負荷を判断するわけですから、労災認定されないケースが多くありました。
改正された労災保険法の内容とは?
[ 出典 ]
労働者災害補償保険法の改正について|厚生労働省fa-external-link
賃金を合算して保険給付額を算定することに
法改正後は、兼業や副業をする人が勤務中の事故等で働けなくなった場合に、本業と副業の賃金を合算して労災保険が給付されることになりました。
たとえば、月給25万円のA社と月給10万円のB社の両方で働いている人が、B社でケガをした場合、いままではB社の労災保険が使われ、B社の給料10万円をもとに、給付額が算出されていました。
これが、制度改正後は「A社のお給料の額も含めて休業補償給付の金額が計算される」ことになったのです。つまり、2社の給料の合計=35万円を基準として、労災の給付が行われることになりました。
残業時間の計算見直し、複数企業の労働時間を合算
これまでは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いた残業時間は、1社ごとに判断されていました。
たとえば本業であるA社で月160時間(1日8時間)、B社で月120時間(1日6時間)働いたとします。
心臓疾患などで倒れた場合、いままではそれぞれの会社ごとに労働時間を判断され、どちらも法定労働時間内なので、両社とも残業時間はゼロとなり、労災認定されませんでした。
制度改正後は、月の労働時間は2社分を合算して280時間と計算されることになり、残業時間は120時間となります。
これは、過労死ラインである月80時間の残業時間を超えているので、過労死の認定基準を満たすことになります。
このように、これまでは労災と認められなかった案件でも、労災認定されるケースが増えることとなります。
副業による長時間労働、過労死について考える
働き方改革で長時間労働の是正をしているのに、副業を推進しているわけですから、なんとなく矛盾を感じる方もいるかもしれませんが、大切なのはワークライフバランスです。
副業によって長時間労働になってしまい、労働災害が起きる。
そうならないためには、これまで以上に、労働時間の管理をしっかりとしなければなりません。
尚、2社に雇用されて働く場合、労働時間を通算することが法律で定められています(労基法38条1項)。