年収の壁を超えるのを気にして、収入を抑えた働き方をする「年収の壁」の対策として、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しました。
”短時間労働者が年収の壁を意識せず働くことができる環境づくりの支援”ということですが、その内容とは具体的にどういったものなのか、解説します。
目次
年収の壁とは?
年収の壁については、こちらの記事で詳しく解説しています。
年収106万円以上になると、厚生年金・健康保険に加入することになり、保険料負担が発生する。(勤務先の規模や雇用条件による)
年収130万円以上になると、扶養から外れ、国民年金・国民健康保険または厚生年金・健康保険に加入することになり、保険料負担が発生する。
「106万円の壁」への対応とは?|年収の壁対策支援パッケージ
106万円の壁の対策に対する支援は以下の通りです。
パート・アルバイトで働く人の厚生年金や健康保険の加入に併せて、手取り収入を減らさない取り組みを実施する企業に対し、労働者一人当たり最大50万円を支援。
手取り収入を減らさないための取り組みの例は、以下のようなものになります。
- 社会保険適用促進手当を支給する(社会保険料の算定対象外)
- 賃上げによる基本給の増額
- 所定労働時間の延長
キャリアアップ助成金|社会保険適用時処遇改善コース
キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」は、社会保険に入ることとなった労働者の 本人負担分の保険料相当額について手当を支給したり、賃上げを行うことによって、年収の壁を意識せずに働ける環境づくりを行う企業を後押しするものです。
1 手当等支給メニュー
要件 | 1人あたりの助成額 |
①賃金の15%以上追加支給 | 1年目20万円 |
②賃金の15%以上追加支給 3年目以降③の取組を行う |
2年目20万円 |
③賃金の18%以上増額 | 3年目10万円 |
2 労働時間延長メニュー
週所定労働時間の延長 | 賃金の増額 | 1人あたりの助成額 |
4時間以上 | ー | 30万円 |
3時間以上4時間未満 | 5%以上 | |
2時間以上3時間未満 | 10%以上 | |
1時間以上2時間未満 | 15%以上 |
※助成額は中小企業の場合。大企業の場合は3/4の額
※1年目に「手当等支給メニュー」の取組みによる助成(20万円)を受けた後、2年目に「労働時間延長メニュー」の取組みによる助成(30万円)を受けることが可能
従業員にとっては、「年収の壁を越えて社会保険に加入することになっても、保険料の負担分を勤務先から支給してもらえると手取りが減ることにはならない」ということだね。
社会保険適用促進手当
事業主が、社会保険加入となる従業員の手取り収入を減らさないように手当を支給した場合は、本人負担分の保険料相当額を上限として、社会保険料の算定対象となりません。
通常、会社が従業員に支給する手当は、次年度の社会保険料の算定対象になる(新たに手当が支給されるということは=その分社会保険料も上がる)けれど、新たに発生した社会保険料の本人負担分の相当額までは、最大2年間は算定対象とならない。つまり、支給額が増えてもその分の社会保険料は増えないということだね。
「130万円の壁」への対応とは?|年収の壁対策支援パッケージ
130万円の壁の対策に対する支援は、一時的に年収が130万円を超えてもすぐには扶養認定が取り消されないというものです。
一時的な増収とは、たとえば以下のようなケースです。
- 繁忙期に臨時的に残業をした
- 他の従業員の退職や休職等による人手不足により勤務が増えた
- 突発的な大口案件による業務量の増加
これらの理由により一時的・臨時的に収入が増えた場合でも、連続2年までは扶養から外れることなく扶養にとどまることができるようになりました。
CHECK
- 一時的な増収であるということは、パート・アルバイト先の事業主が証明し、扶養している家族の健康保険組合に認められなければなりません。
- 基本給が上がった場合や、恒常的な手当が支給されることによって年収130万円を超える場合には、一時的な増収とはみなされず、扶養認定が取り消される可能性があります。
注意すべき点としては、扶養認定の最終判断は扶養している家族側の健康保険組合だということ。
いくら被扶養者側の勤務先が一時的な増収であることを証明しても、必ずしも認められるわけではないということです。
結局どうなの?支援があるから年収の壁を超えても大丈夫?
今回解説した年収の壁対策支援パッケージの支援策を利用するのは、あくまで企業であり、従業員個人が自分で直接補助を受けられるわけではありません。
年収の壁を超えた従業員に手当支給や賃上げを行うかどうかは勤務先の企業が決めることで、また国の支援は2年や3年の時限措置です。
130万円の壁対策については、あくまで「一時的な増収」でなければいけませんし、一時的な増収であることを毎年証明してもらわなければなりません。そして、証明をしてもらっても、扶養認定の最終判断をくだすのは扶養する側の健康保険組合です。
今回の支援策は時限措置であることから、今後の対応がどうなっていくのかはまだわからない部分がありますが、年収の壁の存在自体が現在の社会に合っていないようにも思います。
年収の壁問題が大きく取り上げられたことで、今扶養内で働いている人にとっては、働き方を考えるひとつの機会となったのではないでしょうか。
そもそも「社会保険に加入すると損」ではありません。目先の手取り収入だけではなく、将来のメリットも踏まえて考えてみても良いかもしれません。