従業員が重大な規律違反を犯した場合、なんらかの懲戒処分が行われることがあります。
懲戒処分の中でも「減給処分」については法律で制限されており、減給には限界があります。
この記事では、懲戒処分の種類と、懲戒として減給処分を行う場合の上限・注意点について解説します。
目次
懲戒処分とは?
懲戒処分とは、重大な規律違反を犯した労働者に対して、使用者が行う制裁のことです。
懲戒処分にはいくつかの種類があります。代表的なものは以下のとおりです。
軽 | 戒告(かいこく)・訓戒(くんかい) | 始末書の提出を伴わない処分 |
↑ | 譴責(けんせき) | 始末書を提出させる処分 |
↑ | 減給 | 一定額を賃金から差し引く処分 |
↑ | 出勤停止、停職 | 一定期間就労を禁止する処分(ノーワークノーペイの原則により、原則賃金は支給されない) |
↓ | 降格、降職 | 職位や等級を引き下げる処分 |
↓ | 諭旨(ゆし)解雇、諭旨退職 | 労働者に退職を勧告し、応じない場合は懲戒解雇する。 |
重 | 懲戒解雇 | 制裁罰としての解雇処分。懲戒処分の中で最も重い処分。 |
この記事で主に取り上げるのは、上記の中の「減給」に関してです。
減給に関する法律
減給の懲戒処分については、労働基準法第91条で規定されています。
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
減給額は、「減給1回当たりの額が、平均賃金の半分以下」かつ「減給総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下」でなければ、労働基準法違反となってしまいます。
減給処分の限度額の計算方法
減給1回当たりの額は、平均賃金の半分以下 かつ 減給総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下でなければいけません。
と言われても、いまいちピンと来ないですよね?それって一体いくらくらいなのか、具体的な金額を知りたいところです。
平均賃金の計算方法
平均賃金 = 事由の発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額(※1) ÷ その期間の総日数(※2)
(※1)
・賃金締切日がある場合は締切日ごとに、通勤手当や時間外手当などの諸手当を含み、税金や社会保険料などを控除する前の賃金総額で計算
・賞与は含まない
(※2)実際の就労日数や所定労働日数ではなく、暦日数
たとえば、月給30万円(ここでは説明のため、あえてわかりやすい数字に設定しています。)の従業員を例にすると、下記の通りの考え方となります。
▼例
[前提]
賃金締切日:毎月20日締
月給30万円
事由発生日:8月10日
POINT
- 懲戒処分の減給に関する事由発生日は、減給の意思がその従業員に到達した日
- 算定事由発生日は含まず、その前日からさかのぼって過去3か月の賃金総額で計算する
期間 | 月分 | 暦日数 | 基本給 | 手当 | 合計 |
6/21~7/20 | 7月分 | 30日 | 28万円 | 2万円 | 30万円 |
5/21~6/20 | 6月分 | 31日 | 28万円 | 2万円 | 30万円 |
4/21~5/20 | 5月分 | 30日 | 28万円 | 2万円 | 30万円 |
合計 | 91日 | 84万円 | 6万円 | 90万円 |
平均賃金=90万円÷91日=9890.10989… → 9890円10銭
1回あたりの減給限度額=平均賃金の半額なので、4945円(円未満四捨五入)までとなる。
月給30万円の場合、平均賃金は約1万円なので、減給の上限は約5千円。
すごくすごーく重大な規律違反を犯した場合でも、減給処分は5千円までが限度なのです。
感じ方は人それぞれですが・・・なんだか少ないような気がしませんか?
CHECK!
※ここでいう「1回」とは、ひとつの事案における減給額のことを指します。
たとえば、減給に値する行為が7回行われた場合、減給額は、4945円×7回=34615円までとなります。
このように何回も減給制裁する場合は、減給額が多くなりますが、減給制限額(一賃金からは、その支払賃金総額の1割までしか減給できない)に注意が必要です。詳しくは次に解説します。
減給額が支払賃金総額の1割を超えてはいけない
減給に相当する違反行為が複数回あった場合でも、一賃金支払期間の減給額は、賃金の総額の10分の1を超えてはいけません。
減給総額がこれを超えてしまう場合は、超えた分は次の賃金以降に減給することになります。
▼例
- 減給処分の通告は、8月10日に行なわれた。
- この日を含む賃金は 8月分(7月21日~8/20日)であり、賃金の総額は30万円である
- 賃金の総額の10分の1 = 3万円 である
1回の賃金(ここでは8月分の賃金)からの減給は、3万円が限度となる
CHECK!
たとえば、懲戒処分となる行為が何度も行われ、7回分の減給処分を行う場合、7回分の減給総額は34615円ですが、一賃金支払期間では3万円までしか減給できないので、残りの4615円は、翌月の賃金から減給します。
労働基準法第91条における減給の制限についてまとめてきましたが、ここでひとつ疑問が。
たまに職員のミスや不祥事に関するニュース等で「3か月間、賃金(報酬)の1割をカット」「1年間、給与を5%減額」などという処分を耳にすることがあるような気がします。
労基法に則るとこの処分は法律違反なのでは…?
それはおそらく、労基法が適用される民間企業の従業員の話ではなく、役員や公務員等に対する処分です。
公務員には民間(労基法)よりも厳しい規定があります。
企業の幹部等が責任をとって報酬を自主的に返上する場合等は、懲戒処分には当たりません。
公務員には、労働基準法とは別の規定があります
公務員は労働基準法の適用対象外です。
公務員が不祥事を起こした場合の懲戒処分は、人事院規則、国家公務員法・地方公務員法等の法律に則って行われ、民間よりも厳しい内容となっています。
たとえば、国家公務員の場合、最大1年間、毎月、俸給月額の5分の1(20%)まで減額できます。
地方公務員の場合は、各地方公共団体の条例で規定されています。
(減給)
第三条 減給は、一年以下の期間、俸給の月額の五分の一以下に相当する額を、給与から減ずるものとする。
最後に
懲戒処分の減給の限度額について解説してきましたが、懲戒処分は就業規則にもそって行いますので、就業規則内の懲戒規定に、労働基準法で定められた額よりも少ない額が限度額としている定められている場合は、就業規則に定めた額が限度となります。
一度、就業規則で懲戒処分に関する部分を確認してみると良いですね。