2023年10月から開始されたインボイス制度では、適格請求書(インボイス)の保存が消費税の仕入税額控除の要件です。
しかし従業員は事業者ではないため、インボイスを発行することができません。
では従業員の立替経費はどのように処理することになるのか、調べた結果をここにまとめます。
目次
インボイス制度の基本
インボイス制度では、原則として、必要事項が記載された適格請求書(インボイス)を保存することが、仕入税額控除の要件となります。(新消法30⑦、新消令49①)
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
- 税率ごとに区分した課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額の合計額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
上記の⑥に「書類の交付を受ける当該事業者の氏名または名称」とあります。誰に向けて交付されたインボイスなのかを明確に示した”宛名”が必要である、というのがこの記事では重要となります。
※スーパーやコンビニなどの小売業や飲食店など、適格簡易請求書(簡易インボイス)の交付が認められている事業の場合は、宛名の記載が不要なのでレシートでも仕入税額控除ができます。
従業員が経費を立替払いしたときの精算とインボイス
従業員が経費を立替払いしあとで精算する、というのはよくあることです。
そのとき、請求書や領収証の宛名が、会社名であるケース、従業員の名前になっているケース、上様や宛名なしの場合があると思いますので、ケースごとにまとめていきます。
宛名が事業者(会社名)となっている場合
従業員が立替払いした場合でも、事業者(会社)宛のインボイスがあれば、その保存をもって仕入税額控除が認められます。
宛名がない・宛名が「上様」の場合
従業員が立替えた経費を仕入税額控除をするためには、宛名が会社名のインボイスが必要です。
宛名がない領収証は、厳密にはインボイスの記載要件を満たしていないことになります。
ただし、スーパーなどの不特定多数の者に発行するような小売業や飲食店、タクシー業者等、簡易インボイスの交付が認められている事業者から簡易インボイスを受領した場合は、宛名は不要です。
宛名が従業員の名前の場合
従業員が経費を立替払いしたときの請求書や領収証の宛名が、従業員の名前になっている場合、それは事業者宛のインボイスではない(先述した、インボイスに記載する必要事項⑥を満たさない)ため、原則として事業者が仕入税額控除を受けることはできません。
事業者が仕入税額控除を受けるためには、適格請求書の保存に加え、事業者名(会社名)が記載された「立替金精算書」の作成・保存が必要です。
会社が従業員名の宛名のインボイスを受領した場合、それが会社の支出であることを明確にするため、会社名が記載された立替金精算書を作成し、従業員名宛のインボイスとあわせて保存することで、インボイスの保存があるものとされます。
▶ 参考:消費税法基本通達11-6-2(立替払に係る適格請求書)|仕入税額の控除に係る帳簿及び請求書等の記載事項の特例
立替金精算書とは
立替金清算書には決まった形がありません。記載事項として基本的には下記の内容が必要になります。
- 代金を立て替えた事業者名や人物の氏名
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに分けた合計額と適用税率
- 税率ごとに分けて合計した消費税額
- 書類の交付を受ける事業者の氏名・名称および登録番号
立替金精算書は、立替てもらった代金が、立替金精算書の交付を受ける事業者側が支払ったものであることを証明するための書類となります。
仕入れ税額控除を受けるためには、適格請求書(インボイス)と立替精算書を併せて保存しなければならないということに注意してください。
尚、立て替えてもらった代金の支払い先が免税事業者の場合は、そもそも適格請求書(インボイス)が発行されないので、立替金精算書の作成も不要となります。
まとめ
従業員が経費精算(立替払精算)を行う場合、領収証の宛名は会社名にして適格請求書(インボイス)を受け取りましょう。
会社宛ての領収証であれば、立替経費の精算は社内規定に従って行うだけで良く、仕入税額控除のためのインボイス保存もスムーズです。
なお、小売業や飲食店、タクシーなどは領収証の宛名は不要で、簡易インボイス(レシートで可)を受け取るだけで大丈夫です。わざわざ宛名付きで領収証を書いてもらう必要はありません。
従業員個人の名前で領収証等(インボイス)をもらった場合は、会社のインボイスとして取り扱うために立替金清算書の作成と保存が必要となります。