従業員へ支払われる通勤手当とインボイス制度の関係について解説します。
通勤手当は消費税がかかる
多くの企業で給与と一緒に支給される「通勤手当」は、課税取引ですので消費税がかかります。
※ 通勤手当は、所得税法上は「非課税」ですが、消費税は課税されます。
混同しがちなので要注意です。
通勤手当は、労働の対価ではなく、通勤にかかる交通費の実費を会社が支払っていると考えます。そのため、労働者に所得税はかかりません。(非課税)
交通費ですので、消費税はかかります。(課税)
通勤手当にインボイスは必要なのか
2023年10月より開始されたインボイス制度では、消費税の仕入税額控除の要件として、適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
しかし、通勤手当の場合、従業員は事業者ではないので、適格請求書(インボイス)を発行することができません。では、通勤手当は仕入税額控除ができないのでしょうか?
結論から言うと、通勤手当に適格請求書(インボイス)は不要で、仕入税額控除ができます。
通勤手当はインボイス不要
国税庁が認める適格請求書の交付が受けられない一定の場合には、帳簿保存のみで仕入税額控除ができます。
帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合とは
適格請求書等保存方式の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件です。
しかし、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の取引については一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められています(消令49①、消規15の4)。
通勤手当は下記⑨「従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等」にあたりますので、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで、仕入税額控除が認められます。
「一定の事項」については後述します。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
- 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除く)
- 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
- 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得
- 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
- 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
▶ 資料:帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合|消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A
上記資料の「問108」には、通勤手当の仕入税額控除について具体的に記されています。
(通勤手当)
【問 108】社員に支給する通勤手当については、社員は適格請求書発行事業者ではないため、適格請求書の交付を受けることができませんが、仕入税額控除を行うことはできないのですか。【答】
従業員等で通勤する者に支給する通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分の金額については、課税仕入れに係る支払対価の額として取り扱われます。この金額については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消法30⑦、消令49①一ニ、消規15の4三、基通11-6-5)。
なお、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「通勤者につき通常必要と認められる部分」については、通勤に通常必要と認められるものであればよく、所得税法施行令第20条の2において規定される非課税とされる通勤手当の金額を超えているかどうかは問いません。
通勤手当の金額に関して、所得税の非課税範囲内である必要はありません。非課税限度額を超える通勤手当であっても仕入税額控除ができます。
一定の記載事項とは
通勤手当における一定の記載事項とは次の通りです。
- 相手方の氏名
- 取引年月日
- 取引の内容
- 支払対価の額
- 出張旅費等特例に該当する旨
※帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる取引である旨の記載(出張旅費等特例とは…従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当のこと)