基礎から知りたい年金制度のしくみシリーズの3回目です。
▼第一弾・第二弾はこちら
日本では、原則として20歳以上から60歳未満の全国民が、国民年金と厚生年金のいずれかの公的年金制度に加入し、保険料を納めなければいけないことになっています。
では、払った保険料はどう使われているのでしょう?
毎月何万円もの年金保険料を支払うのですから、払った後にどのように使われているのかは知っておきたいですね。
ちゃんと知ることで「年金制度は本当に大丈夫なの?破綻してるって噂は本当?」「私たちが老後を迎えるころには、どうせ年金がもらえない」なんてぼんやりした不安を解消する種になるかもしれません。
目次
日本の公的年金は「賦課方式」が基本
日本の公的年金制度は、現役世代が納めた保険料を、そのときの年金受給者への支払う「賦課方式」で運営されています。
自分が納付した保険料を預貯金のように積み立てて、その積立てを将来受け取るわけではありません。
- 現役時代に払った保険料を積み立てて、老後にそのお金を受け取る仕組みを「積立方式」という
- 今の現役次第が払った保険料を、今の年金受給者に給付する仕組みを「賦課方式」という
自分の年金を自分で貯めているわけではないんだね。
賦課方式は、現役世代から高齢者への仕送りに近いイメージですね。
なぜ賦課方式なのか?
賦課方式を採用している理由の一つとして、年金の実質的な価値を維持するのに適しているということがあります。
年金の実質的な価値とは、決まった金額ではなく、物価や所得水準に応じた「経済的価値」のことです。
- 景気変動に強く、年金の価値が変わりにくい
- 現役世代の賃金や生活水準に応じた年金を給付することができる
もっと詳しく知りたい方は、マンガと図で解説してくれている以下のページがわかりやすいです。
▶ 賦課方式と積立方式|いっしょに検証!公的年金|厚労省
賦課方式に関する不安
少子高齢化の影響は?
少子高齢化が進んでいる中、保険料を支払う現役世代の人数が減っていくのだから、将来的には年金がもらえない、または年金の額が少なくなってしまうのでは?
そうですね。
確かに、年金の給付に必要な額を現役世代からの保険料収入だけで用意しようとすると、少子高齢化の影響で収入が不足する可能性があります。
そこで少子高齢化の影響を軽減するために、一定の「年金積立金」を保有しています。
年金積立金
年金積立金とは
現役世代が収めた保険料と国庫で年金を払い、残ったお金を積み立てています。
日本は少子高齢化が進んでいるので、現役世代が払う保険料だけで年金給付を賄おうとすると、保険料の引き上げをするか、年金の給付水準を下げなければならない状態になってしまいます。
そこで対策として、一定の積立金を保有してその運用収入や元本を活用する財政計画を立てています。
年金積立金の目的
年金積立金の目的は、今より少子高齢化が進む将来の給付水準を下支えすることです。
現役世代が払う年金保険料と国庫だけでは年金を賄いきれない(足りない)ときに、積立金で不足分を補うってこと?
おおよそそういうことです。
2004年の年金制度改正で、積立金は約100年をかけて計画的に活用することになりました。
でも積立金だって使えばそのうちなくなってしまうのでは?
ごもっとも。そうならないように、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で、積立金を運用しています。
常にプラス運用とはなっていませんが、長期的にみるとプラスの運用実績となっています。
POINT
- 年金給付財源のうち積立金の割合は1割程度でしかない。あくまで補助的な役割である。(7割が現役世代が収める保険料収入、2割が国庫負担)
- 積立金を活用することによって、賦課方式のデメリットを補っている
年金積立金の運用
厚生年金と国民年金の積立金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)等が管理していて、国内外の債券や株式などで資産運用がされています。
年金積立金の運用状況や実績などについて詳しく知りたい人は、GPIFのホームページを確認すると良いですよ。
▶ 年金積立金管理運用独立行政法人
財政検証
公的年金の財政を安定して持続させるための仕組みとして、5年ごとに長期の財政収支の見通しや、マクロ経済スライド(**)に関する見通しを作成し、公的年金財政の健全性を検証する「財政検証」が行われています。
(**) 「マクロ経済スライド」とは、財源を固定して、その範囲内で年金の給付水準を自動的に調整する仕組みのことです。
マクロ経済スライドについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
公的年金の財政バランスは、人口構成や社会情勢、経済情勢によって変化します。
そのため、少なくとも5年ごとに財政検証を行うことで、人口や経済の実績を織り込んだ財政見通しを作成しているのです。
財政検証の結果は、厚生労働省のホームページで公開されているので、いつでも誰でも見ることができます。
いろいろと年金財政を安定させるための仕組みがあることはわかったけど、そうは言ってもどんどん加速している少子高齢化。
今後ますます少子高齢化が進むと、年金保険料がどんどん上がっていって現役世代の負担が増えるのは確定だよね...。
2004年に導入された仕組みによって保険料の上限が決められて、厚生年金の保険料率はもう上限(18.3%/労使折半で9.15%ずつ負担)に達したので、これ以上は上がらないことになっています。
え!そうなの!?
・・・本当に絶対上がらないって言いきれる?
なんだか信用できない。「上限引き上げ」とかになりそう。
・・・ま、まぁ、未来のことは何とも言えませんが、現時点では上限に達しているのは事実です。
ちなみに国民年金の方も実質的な負担の上限が決められていて、こちらもすでに上限に達しています。
厚生年金の被保険者の賃金の変動に合わせて、実質的な負担が変わらないように調整されています。
まとめ
私たち(現役世代)が払った年金保険料がどのように使われているのかについて解説しました。
おさえておきたいポイントは以下の5つです。
- 日本の公的年金の財政方式は、現役世代が支払った保険料がそのときの高齢者の年金となる「賦課方式」が基本
- 少子高齢化が進む中でも安定して年金制度を続けていくために、積立金も活用している
- 積立金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、債券や株式などで資産運用している
- 少なくとも5年ごとに、財政検証(年金財政の現況と見通しの作成等)を実施している
- 厚生年金保険料率は、平成29年9月以降 18.3%で固定されており、これが上限なのでこれ以上は上がらない
年金制度についてもっと知識を深めていくために、気になることを今後も記事にまとめていきます。
・老後にもらえる年金はいくら?確認・計算方法は?
・ニュースで耳にする「マクロ経済スライド」って何? など